2012年05月18日

『下行性疼痛抑制系』と『内因性オピオイド系』【痛みの抑制A】

痛みが和らぐ現象は、さすったりつねったりして身体の外から刺激を与える方法以外にも、身体の中の神経の働きなどによっても生じます。その中に『下行性疼痛抑制系』と『内因性オピオイド系』というものがあります。


下行性疼痛抑制系』とは、脳幹から脊髄に向かって下行する抑制性ニューロンによって、脊髄後角での一次侵害受容ニューロン二次侵害受容ニューロンとのシナプス伝達を抑制し、痛み情報が二次侵害受容ニューロンに伝わらないようにして、痛みを和らげるものです。1979年に発見されました。


シナプス.jpg
図1:シナプス



シナプスは、【痛みの経路B】で説明したように、神経がバトンタッチするところです(図1)。


シナプス伝達.jpg
図2:シナプス伝達



どのようにバトンタッチするかというと、伝達物質という化学物質をバトンにして、それが前の神経から後の神経に受け渡されることにより行われます。前の神経には、伝達物質を蓄えているところ(シナプス小胞)があり、電気刺激がそこに到達すると、その伝達物質が後の神経に向けて放出されます。後の神経には、その伝達物質を受け取る受容体があり、その伝達物質が受容体にくっつくと、それが電気刺激に変換され、その電気刺激が後の神経を伝わっていきます(図2)。このようにして、神経間で情報のやりとりが行われています。


下行性疼痛抑制系.jpg
図3:下行性疼痛抑制系



下行性疼痛抑制系』の抑制性ニューロンは、一次侵害受容ニューロン二次侵害受容ニューロンシナプス伝達を抑制するために、脊髄後角へ‘ある’伝達物質を放出します。その伝達物質は、ノルアドレナリンセロトニンの二つがあります。それぞれの伝達物質が放出される神経経路を、ノルアドレナリン系セロトニン系とよんでいます。ノルアドレナリン系セロトニン系ともに、脳幹の中脳から始まります(図3)。


この『下行性疼痛抑制系』を利用して痛み和らげる薬物がいくつか開発され、現在の医療で使われています。


@モルヒネ、オピオイド

中脳を刺激し、『下行性疼痛抑制系』を賦活させることにより、痛みを和らげます。

モルヒネとは、アヘンに含まれているアルカロイド(窒素原子を含み、塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称)で、麻薬のひとつです。鎮痛、鎮静薬として様々な痛みの軽減に有効ですが、依存性が強い麻薬の一種のため、各国で法律により使用が厳しく制限されています。医療においては、癌による痛みをはじめとした強い痛みを和らげる目的で使用されています。適切な治療法に従って使用した場合は、依存は起こらないとされています。

オピオイドとは、オピオイド受容体に結合する物質の総称です。オピオイドの主要な作用は、鎮痛作用です。モルヒネオピオイドのひとつです。オピオイド受容体は、歴史的にはモルヒネが結合する受容体として発見されたので、モルヒネ受容体ともよばれています。


A選択的セロトニン再取り込み阻害薬(抗うつ薬)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬

再取り込阻害薬.jpg
図4:再取り込み阻害薬



抑制性ニューロンの伝達物質であるセロトニンノルアドレナリンを、脊髄後角に長時間漂わせてそれらの濃度を高くすることにより、一次侵害受容ニューロン二次侵害受容ニューロンとのシナプス伝達の抑制を強化し、痛みを和らげます。

再取り込み阻害薬とは、神経から放出された伝達物質は通常その神経に回収(再取り込み)されますが、この回収(再取り込み)過程を阻害する薬のことです(図4)。



内因性オピオイド系』とは、内因性オピオイド(身体の中で作られるオピオイド)をオピオイド受容体に結合させることで、痛みを和らげるものです。オピオイド受容体は、中枢神経系に幅広く分布しています。痛みは、痛み刺激が末梢から大脳に伝わると生じますが、その痛みの経路の途中にあるオピオイド受容体オピオイドが結合すると、痛み刺激が伝達されにくくなり、痛みが和らぐこととなります。


鍼治療プラセボバイオフィードバック療法による鎮痛は、この『内因性オピオイド系』が関与しています。


プラセボとは、偽物の薬のことで、本物の薬のような外見だが薬としての効果がないものです。


バイオフィードバック療法とは、自律神経系の情報(心拍数や血圧など)を利用し、自分の意思によって心身の状態をコントロールする治療法です。


以上のように、ヒトには痛みを和らげるしくみがいくつか備わっています。みなさんにも経験があるかもしれませんが、本当は痛いはずなのに、痛みを感じないときがあります。例えば、スポーツの試合において、骨折しているのに気づかずプレーを続け、試合終了後に激痛を感じて骨折していることが分かるようなとき。このようなときは、以上のような痛みを和らげるしくみが作動しているのでしょう。このしくみを、自由自在に操れれば、痛みと上手く付き合っていくことができそうですね♪


おわり(^^)


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
小山なつ:痛みと鎮痛の基礎知識(上)基礎編,技術評論社.2010.

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2012年05月27日

病態による分類【痛みの分類@】

『痛み』といっても、様々な種類があります。『痛み』にはどのようなものがあるか、様々な観点から分類することが出来ます。今回は、『病態』に注目して『痛み』を分類します。『病態』の違いによって『痛み』は、急性痛慢性痛に分けることが出来ます。


従来、『痛み』は、その持続時間によって、急性痛慢性痛に分類されてきました。しかし、現在では、両者の病態や発生メカニズムがまったく違うものであることが示され、『痛み』は決して時間的経過によって分類、定義されるものではないと捉えられています。


@急性痛
急性痛とは、『痛み』を感じている場所に、『痛み』の原因を確認できる『痛み』のことです。けがや急性の病気で経験する『痛み』、手術後に経験する『痛み』などは、急性痛です。このような『痛み』の多くは一過性のもので、その原因となっている疾患が治れば、『痛み』も消失します。急性痛は鎮痛薬で『痛み』を軽減することができます。

急性痛は、本来生物に備わっている、組織が損傷していること、生体が危機にさらされていることを知らせる警告信号です。安静が必要なことを知らせて、それによって治癒を促すようにさせています(生体警告系)。


A慢性痛
慢性痛とは、『痛み』を感じている場所に、『痛み』の原因を確認できない『痛み』のことです。組織損傷が治癒しているのに痛い、画像や血液検査によって異常がみつからないのに痛い、いつまでも痛みが続く、という場合などは、慢性痛です。慢性痛は、手術や薬での治療が奏功しません。

慢性痛は、生体警告系の役割を果たすものではなく、ただただ生活の質QOLquality of life)を著しく損なう病態といえます。生活の質とは、人間らしく生活しているか、自分らしく生活しているか、幸福な人生であるか、ということを尺度として捉える概念です。

慢性痛の発生については、神経系の感作可塑的変化によって生じるといった、新たな病態メカニズムが提示されています。感作とは、感じやすくなっている、反応しやすくなっている状態のことです。可塑とは、形を変えやすいことで、可塑的変化とは、変形して元に戻らないような変化のことです。『痛み』の情報伝達系は、何にでも変わりうる自由度が高い、つまり可塑性が高く、この可塑性の高さが『痛み』の神経回路に歪みを生じやすくさせています。

強い痛みが持続すると、『痛み』の神経回路に、混線などの歪み、すなわち可塑的変化が生じ、その結果、接触や熱のような非侵害性の体性感覚刺激、精神、自律神経系などに加わる様々な刺激を、『痛み』として感じてしまうようになります。「触るだけで痛い」「冷えると痛い」「ストレス下や緊張時に痛みが増す」など、『痛み』にとりつかれた“痛み病”とでもいうべき状態となり、通常では『痛み』を感じないような刺激や状況下において、『痛み』を感じるようになります。


以上のように、急性痛慢性痛はまったく違った病態です。慢性痛は複雑な病態であり、多様な症候や徴候を示す症候群であります。急性痛は疾患に伴う『一症状』ですが、慢性痛は新たな『病気』と捉えられるようになってきています。


つづく・・・


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
小山なつ:痛みと鎮痛の基礎知識(上)基礎編,技術評論社.2010.

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2012年05月29日

症状による分類【痛みの分類A】

今回は『症状』に注目して、通常の『痛み』とは異なる治りにくい『痛み』を分類します。治りにくい『痛み』には、アロディニア痛覚過敏痛覚鈍麻自発痛灼熱痛などがあります。


@アロディニア
アロディニアとは、明らかに正常な皮膚に、通常では『痛み』を起こさないような刺激を与えても、『痛み』が生じることです。アロディニアでは、触られたり、圧迫されたり、温かいものや冷たいものが触れたりしただけで、『痛み』を感じます。衣服や寝具が触れる、風があたるなどの軽微な刺激でも『痛み』を感じます。

アロディニアは、感覚の質が変化している状態で、刺激と反応の様式が異なっている状態です。例えば、正常では触られたら「何かが触った」と感じるのですが、アロディニアでは触られたら「痛い!」と感じるように、ある刺激に対する感覚が正常とは違うものになっている状態です。つまり、この例でいうと、正常では『触刺激』に対して『触覚』が生じるのですが、アロディニアでは『触刺激』に対して『痛覚』が生じてしまいます。

アロディニアの発生メカニズムとしては、侵害受容器の閾値の低下(末梢性感作)や、脊髄後角の広作動域ニューロンの閾値の低下(中枢性感作)などによって、非侵害刺激が侵害受容ニューロンに伝わり、『痛み』として知覚するようになっていると考えられています。閾値とは、神経(ニューロン)を興奮させるために必要な、最低限の刺激の強さの値のことです。閾値が低下するということは、神経が興奮しやすくなったということです。


A痛覚過敏
痛覚過敏とは、痛み刺激に対する『痛み』を、通常感じる程度以上に強く感じることです。痛覚過敏は、アロディニアとともに生じることが多いです。痛覚過敏は、損傷組織で生じるものを一次痛覚過敏、損傷組織の周囲で生じるものを二次痛覚過敏といいます。

痛覚過敏の発生は、一次痛覚過敏は侵害受容器の閾値の低下(末梢性感作)、二次痛覚過敏は脊髄後角の侵害受容ニューロンの閾値の低下(中枢性感作)によるものです。


B痛覚鈍麻
痛覚鈍麻とは、痛覚過敏の逆で、痛み刺激に対する『痛み』を、通常感じる程度以下に弱く感じることです。


C自発痛
自発痛とは、刺激をまったく受けていないにもかかわらず生じる『痛み』のことです。


D灼熱痛
灼熱痛とは、「焼けつくような痛み」と表現されるものです。日本では、「触れられると痛い」「ビーンと痛みが走る」「しびれるような」と表現される場合が多いといわれています。末梢神経損傷後に生じる、激しい持続的な灼熱痛カウザルギーといいます。


つづく・・・


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
奈良勲 監,内山靖 編:理学療法学事典,医学書院.2006.

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2012年05月30日

原因による分類【痛みの分類B】

今回は『原因』に注目して、『痛み』を分類します。『痛み』は、『原因』に注目すると、侵害受容性疼痛神経障害性疼痛心因性疼痛に分けることができます。


@侵害受容性疼痛
侵害受容性疼痛は、もっとも一般的に生じる『痛み』です。機械的刺激、熱刺激、化学的刺激により、組織の侵害受容器が直接的に刺激されて『痛み』が生じますが、その後、損傷された組織や一次侵害受容ニューロン末端から放出される痛み関連物質によっても侵害受容器が刺激され、『痛み』が生じます。

侵害受容性疼痛は、体性痛と内臓痛に分けられ、さらに体性痛は表在痛(皮膚、粘膜)と深部痛(骨関節、骨格筋など)に分けられます。

侵害受容器が持続的に刺激されると、侵害受容器が感作末梢性感作)し、さらに中枢神経系にも感作が生じ(中枢性感作)、『痛み』は持続、憎悪することになります。


A神経障害性疼痛
神経障害性疼痛に似たような言葉で、神経因性疼痛というものがあります。神経因性疼痛とは、原因が神経系にある『痛み』のことで、侵害受容器の興奮が出発点ではない『痛み』を意味します。神経因性疼痛のうち、神経系が損傷しているものを神経障害性疼痛といいます。神経系が損傷していない場合の例としては、長時間正座をしていて生じる脚のしびれ感が挙げられ、これは神経因性疼痛に分類されます。

神経障害性疼痛は、慢性痛の代表的なもので、『痛み』の伝達や抑制機構に関わる中枢神経系および末梢神経系の、一次的障害または機能異常によって生じる『痛み』です。末梢神経損傷、脳卒中、脊髄損傷など、様々な神経損傷によって生じる可能性があります。アロディニア痛覚過敏のほか、様々な知覚異常を伴うことが多く、発汗や皮膚温の異常など交感神経の過剰興奮症状を示すこともあります。

発生メカニズムとして、交感神経を含む末梢神経や中枢神経に生じた、機能的、器質的(構造的、形状的)変化が複合的に関与すると考えられています。

末梢神経では、刺激に対する感受性の亢進、損傷部での異常興奮の発生、エファプスの形成、末梢神経の発芽、軸索反射(逆行性伝導)、交感神経末端からのプロスタグランジンの放出、αアドレナリン受容体の発現と増加、神経腫の形成、異所性興奮などが関与しています。

エファプスとは、2個以上の神経が正常なシナプスを形成せずに電気的に接合する部位のことです。通常神経は電気的に絶縁されていますが、神経が損傷して絶縁状態でなくなると、その部分が接触することにより、電気刺激が通常とは異なる神経に伝達されてしまいます。

中枢神経では、脊髄後角の感受性の亢進や異常興奮、大脳皮質感覚野の再構築、前頭前野の機能異常、下行性疼痛抑制系の機能低下などが関与すると考えられています。


B心因性疼痛
心因性疼痛とは、器質的、機能的病変がない、またはあったとしても『痛み』の訴えと合致しない場合で、心理的要因が大きく影響する『痛み』です。


慢性痛では、時間経過に伴い、侵害受容性疼痛神経障害性疼痛心因性疼痛が加わり、その割合が増大していくことが多いです。これらの『痛み』は、個々に独立して存在するのではなく、重複して存在することが多いと考えられています。


おわり(^^)


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.
小山なつ:痛みと鎮痛の基礎知識(上)基礎編,技術評論社.2010.

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2012年06月03日

皮膚の痛み【運動器の痛み@】

骨、関節、骨格筋、末梢神経など、身体運動に関わる末梢組織を総称して『運動器』といいます。厚生労働省が行っている国民生活基礎調査の2010年の有訴者率をみると、男性の第1位は『腰痛』、第2位は『肩こり』、第5位は『手足の関節の痛み』、女性の第1位は『肩こり』、第2位は『腰痛』、第3位は『手足の関節の痛み』となっており、多くの国民が『運動器』の痛みを訴えていることがわかります。そこで、『運動器』の痛みについて整理していこうと思います。今回は皮膚の痛みについてです。


まず、皮膚の構造について整理していきます(図1)。皮膚は、その表層から順に、表皮真皮皮下組織に区分されます。さらに表皮は、表層から順に、角質層顆粒層有棘層基底層に区分されます。場所によって異なりますが、皮膚の厚さは約0.5〜4.0mm、表皮の厚さは約0.2mmです。ちなみに、表皮には毛細血管が存在しないため、浅い表皮の傷、表皮剥離では出血しません。

皮膚の構造.jpg

図1:皮膚の構造



皮膚には、触覚圧覚温度覚温覚冷覚)、痛覚を感知する多数の感覚受容器が存在します。皮膚において、それぞれの感覚を感じるところ、つまり感覚受容器があるところを感覚点といいます。痛覚の感覚点は痛点といい、そこには痛覚受容器があります。痛点は全身に200万〜400万個、1cm2あたり50〜350個存在するとされ、感覚点の中で最も多いです。


痛覚受容器は、別名を侵害受容器といい、【痛みの経路A】で説明したとおり、自由神経終末に存在します。侵害受容器には、高閾値機械受容器ポリモーダル受容器があり、機械的刺激、熱刺激、化学的刺激に反応します。ちなみに、温度覚の受容器(温受容器と冷受容器)も自由神経終末に存在します。45℃以上の高温、10℃以下の低温では、温度覚の受容器は興奮せず、侵害受容器が興奮します。


皮膚において、自由神経終末は、皮下組織表皮基底層まで分布が確認されています。表皮基底層より表層では自由神経終末の分布はないので、皮膚に角質がはがれ落ちるような刺激(例えば、アルコール綿で皮膚をこするような刺激)を加えても、『痛み』を感じることはありません。


つまり、ヒトは、表皮基底層まで刺激が伝わらないと、『痛み』を感じることはありません。(^^)


つづく・・・


〈主な参考文献〉
松原貴子,沖田実,森岡周:ペインリハビリテーション,三輪書店.2011.

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